Konifar's ZATSU

私はのび太の味方じゃないわ、悪の敵よ

目標設定とは何か

目標設定むずかしいよね。正直嫌いとか意味がわからんと言う人も多いと思う。自分は適切な目標設定は必要なものだという腹落ちはしてるんだけど、なぜむずかしいかとかはうまく説明できなかった。

そんな時に EM.FM Re8. 本当に意味のある目標設定MBOの歴史から色々と話していてさすがだなー面白いなーと思ったので、自分もそもそも目標管理とは何なのかチョット調べてみることにした。

学術的にきちんと学べたわけではないので少しこわい部分もあるけれど、こういうのは誰かのためになるかもしれないし書いてみる。もし間違いや補足があれば教えてもらえると嬉しい。

目標管理の起源

  • 目標管理の起源は欧米の研究者の中ではよく論じられているテーマらしい
  • 諸説あるが、アリストテレス「成功するには目的意識を持て」 と言ったのが最初という説もある
    • この起源とは関係ないが、Googleでは「効果的なチームを可能とする条件は何か」を研究した『Project Aristotle』というプロジェクトにおいて『心理的安全性』の話が出てきたりした ref

目標管理の歴史

19世紀末 : 目標管理以前の生産管理

  • 第二次産業革命を経て、管理者と労働者が明確に分かれ、生産性の議論がされ始めた
  • 労働者の 組織的怠業 に対して管理者が勘と経験で対処していた状態から、テイラーが 科学的管理法 を提唱した
    • タスクやノルマ、時間あたりの生産効率、標準化、マニュアル化といった現代の経営学の基礎となるものが示された
  • この時にはまだ目標管理という概念はないが、企業の生産性をどう上げるかという経営課題が論じられるようになった
    • 「なんだかところどころ生産性が高い工場があるから研究してみよう」みたいな状態

1950年代 : MBOの誕生

  • ドラッカーが1954年に 『Management By Objectives and Self-control (目標による管理と自己統制) 』 という手法を発表 ref
    • 現代の経営 の中には「目標を設定することによって始めて、事業は晴雨、風向き、自己に翻弄されることなく、達すべきところに達することができる」と書かれている
  • 『and Self-control』と書かれているように、 目標管理には自己統制がセットであるべき とされている
    • 要は従業員自らが自分で決めて自走できるのが大事ということ
    • 現代の経営 の中には「自己統制によって人々の仕事の達成目標はいっそう高まり、視野もそれに伴ってより広いものになる」と書かれている
  • この後、マクレガーがマズローの欲求5段階説などの心理学の要素も取り入れてモチベーション理論も考慮し、目標管理を経営哲学に発展させていった
  • この時には目標管理はあくまで経営手法のひとつとして語られている

1960年代 : 日本でMBO導入

  • 日本でも経営参加意識の向上と人材の育成という目的でMBOを導入しはじめた
  • 『組織と個人の統合』『経営目標への参画』『能力・キャリア開発』といった真の活性化を目指したものだった
  • この時には『and Self-control』というMBOの自己統制が大事という話も取り入れられていたように見える

1968年 : ロックの目標設定理論

  • 目標設定が動機づけにつながることを示した目標設定理論をエドウィン・ロックが提唱した ref
    • ハーズバーグの内発的動機づけ/外発的動機づけ、マズローの5段階欲求説の社会的欲求/承認欲求/自己実現欲求などの心理学の要素も取り入れられている
  • 動機の強さに影響を与える要素として次の4つがあり、統合的に考える必要があるとした。逆に言えばこれら4つのどれかが欠落すると目標設定が形骸化する
    • 難易度
      • 難しすぎても諦めてしまうし、簡単すぎてもやる気にならない。ちょうどよい目標が大事
    • 具体性
      • 「とにかくがんばろう」より「今月100件できるようがんばろう」のように定量かつ具体的な目標だと測定がしやすく、達成に向けた努力もしやすい
    • 受容度
      • 上司から押し付けられるのではなく、本人が受け入れていることが重要。作業として業務をこなすより、目的や意義を理解して取り組む方が高いモチベーションを維持できる
    • フィードバック
      • 進捗を見えるようにして方向性や現在地について定期的なフィードバックをでフォローすることが大事
  • この理論の考え方には、動機づけという心理学的要素も組み入れられており、OKRの思想にもつながっている

1970年代 : OKRの誕生

  • インテルCEOのアンディ・グローブが目標設定フレームワークとしてOKR (Objectives and Key Results) を作った ref
  • HIGH OUTPUT MANAGEMENTでは、MBOの問題として『目先の目標を意識しすぎて目的を見失い作業化してしまう』という側面があるとしている。アンディはこれを防ぐために次の2つの質問に答えられるべきだとした ref
    • 自分がどこへ行きたいか?
    • そこへ到達するために自分のペースをどう決めるか?
  • ここからさらに重要なものだけに絞ることで本当に達成するべきことに注力できるようにしたのがOKRと言える

1982年 : デミングの14のポイント理論

  • W・エドワーズ・デミングがビジネス効率を向上させるためのマネジメントの14の原則を提示した ref
  • この中で 「数値目標を排除する。新たな手法も提供せずに生産性の向上だけをノルマとしない」 と目標管理について言及している
    • 組織システムをきちんと理解せずに目標管理の手法のみを実践すると間違った方向に進んでしまうというMBO信仰への批判とも言える
    • デミングは品質管理の研究をしていたこともあり、生産指標のみを盲信すると手段を選ばず目標達成のための行動をしだしてしまい低品質につながることを指摘した
    • ドラッカーはもともと 「経営者には全体的な視点が要求される」 と警告していた点にも触れ、目標管理の運用者の多くは方法論的にMBOを適用しこの警告を無視していると述べた

1990年代 : 日本独自の目標管理

  • バブル崩壊後、性急な成果主義の広まりとともに目標管理を達成度を測るツールとして利用する会社が増え始めた
    • 業績を上げなければいけないという状況において、「そもそも成果とは何か」という問いに対して当初から導入されていたMBOの目標と紐づけて『目標に対する達成度』だと定義していったのが始まり
    • これにより『Management By Objectives (目標による管理)』 が、『Management Of Objectives (目標の管理)』に変化した
  • もともとの生産性の向上やSelf-controlの文脈は失われ、評価指標として認識されるようになっていった。これは成果達成のためだけの目標をノルマ化して測定する日本独自の目標管理と言える
  • さらに、評価とつよく紐づけたことにより、企業の成果よりも個人の目標をいかに達成するかに目が向くようになり、達成基準を低くしたり足並みを揃えにくくなったりといった問題も起き始めた
  • このあたりから目標管理は経営手法というより人事評価手法として語られる場面が見られるようになった
    • これはデミングが警鐘を鳴らしていた悪い方向に進んでしまったと言える

2000年以降 : OKRの広まり

  • GoogleがOKRを導入して業績を上げ始め、シリコンバレーのさまざまな企業で導入が進んでいった
  • Google人事トップだったラズロ・ボックが書いた WORK RULES! が2014年に和訳されて以降、日本にも広まっていった
    • 2018年に上場したメルカリがOKRを採用していることが紹介されて認知度がさらに高まった
    • と言っても実際のところOKRが国内でめちゃくちゃ広まっているかと言えばそうでもない
  • OKRの内容については Measure What Mattersre:Workのガイド を読むこと
  • 日本独自のMBOを経て、目的や意義を理解した上で目標を捉える重要性を認識したものの、OKRだろうがそうでなかろうがどうすればうまく運用できるかという点について各社悩んで議論しているのが今

目標設定とは何か

  • 歴史を見てくると、目標設定とは 『経営手法のひとつである目標による管理のプロセスのひとつ』 であるとわかる
  • 組織目標をうまく立てると業績に対してポジティブな影響を与えると1950年代くらいから研究されている。歴史に学ぶとこれは立てた方がいいことは明白
    • 目標を立てる際にはロックの目標設定理論の『難易度』、『受容度』、『具体性』を意識する必要がある。これはOKRでも同じ
    • さらに目標の達成に向けては『フィードバック』も設計しなければならない。OKRで言えばウィンセッションなどもそう
  • 目標管理の歴史の中では、個人目標よりも組織目標にフォーカスが当たっているように見える。もともとが業績向上を目的とした経営手法として語られ始めた話だからまあそれはそうという感じ
    • 動機づけやモチベーションについての言及はあるが、個人のキャリアや自己実現と密接に紐づけて語られてはいないように思えた
    • おそらく個人目標については、デイビッド・C・マクレランドのコンピテンシー理論といった人事評価や組織論の文脈で研究が進んでいると思われる
    • おそらくこれが個人目標を立てる難しさを感じる要因のひとつ
      • 個人目標は組織目標と紐づけて考えるべきではあるものの、評価の側面も意識しなければならないというのが難しい。その2つのバランスを取るのは制度だけではなくマネージャーの『目標設定をさせる力』に依存してしまいがち
    • ここはあんまりキャッチアップできていなくて自信もないので、また人事評価の歴史を見てみるといいのかもしれない

よい目標とは何か

  • 歴史を追っていった中で考えてみると、次の2つの要素が重要だと思う
    • 個々人が意義を語れるか
      • 『皆で目標を作る方がよい』『数字目標だけに囚われすぎるのはよくない』『ムーンショットを設定するべき』みたいな話は全部これ
      • 結局なぜそれが必要なのかを自分の言葉で語れないと、やる気にならないし意義を理解してモチベーション高く取り組むこともできない
    • 個々人の日々の行動が変化するか
      • 定量的じゃないといけないのか』『決めるだけではワークしないよね』『目標多すぎるとよくない』みたいな話は全部これ
      • 明確なゴールが見えないとどう達成するかも見えず日々何をするかも決められないので定量的な方がいいという話になるかもしれないし、目標が多すぎるとフォーカスできず日々の意思決定もできないかもしれない
      • 本質的には日々取り組んだり考えたりすることが変化するかが重要
  • 結局ロックの目標設定理論で1968年に全部話されている内容ではある。よくまとまっててすごい

Appendix