マネジメントでよく言われるセオリーとして、組織の「これをやらねば」という "must" とメンバーの「これやりたい」という "will" とメンバーの「これが得意」という "can" の重なるところを見出して目標設定やアサインをすべしという話がある。
特に "will" が大事で出発点にすべきという話も聞く。現在の興味領域である短期的な will に加えて、キャリア志向を踏まえた中長期的な will もきちんとすり合わせていくとよいという。まあわかる。人間やりたいことをやってる時が一番力を発揮できる。逆にやりたくないことをやっている時は全然パフォーマンスが出ないものだ。
わかるんだけど、メンバー "will" をどのように考慮するかって結構難しいなと思っていて、雑に考えを残しておきたい。
何が難しいというかというと、メンバーが考えている "will" というのはあくまで今のメンバーの目線で見た "will" だというところである。実は彼らが気づいてもいない強みやキャリアの方向性もあるかもしれない。小学生の時になりたかった職業が変化していくように、大人になってもやりたいことや得意領域はどんどん変化していく。中には、はてなの @yigarashi_9 さんのように最初からすごい解像度でマネージャーへの will を示して着実に実現していっている人もいる ref が、どちらかと言うと少数派だと思う。
ユーザーの要望をそのまま機能にしないという話ともちょっと似ている。メンバーに will のヒアリングをするのはいいけれど、それをそのまま受け取ってはいけない。will を聞いた上で対話して、何をしたいか、どこを目指していきたいかをすり合わせるところまでをセットとして考えなければならない。
will 自体の 翻訳 が必要なこともある。そこまで具体的な will ではなく、「もっとユーザーのためになることをやりたい」といった抽象的な内容なこともわりとある。以前、「サーバーサイドの開発、ちょっと飽きてきたんですよね」と伝えてくれたメンバーと色々話をした結果、サーバーサイドエンジニアからiOSエンジニアにチャレンジしてもらったことがあった。彼は今は別の会社で働いているけれど、今もiOSエンジニアとしてバリバリやっている。当初「iOSをやりたい」という will は明確にはなかったが、結果としてうまく合致したようでとても嬉しかった。
「will は特になくて、求められること/やるべきことをひたすらやるのみです」という人もいる。実はそれはそういう will とも言えるかもしれない。これも深堀って聞いていくことが大事。
"will" ではなくて "will not" を聞くという手もあるが、これも注意が必要。自分は昔「マネージャーは性格的に向いてないんでそこまでやりたくはないですね」と言っていた時期がある。今はどうかというと、必要に迫られて受け入れた結果ではあるが、マネジメントロールを経験して本当によかったと感じている。will not をそのまま聞き入れてしまうと、逆にメンバーの可能性を狭めることになるかもしれない。むしろメンバーのバイアスを解きほぐすような対話が求められる。
ここまでつらつらと書いておいて一気に雑な話をすると、will がどうとかいきなり真面目な話をするから身構えて変な感じになってしまう気もする。要は普段からどういう人で何を大事に考えているのかを 1on1 や雑談の中でなんとなく把握しておけるのが理想ってことである。「そういえば前にこういう話してたじゃんか。今度こういう話があるんだけどどう?」くらいのテンションで will を考慮できるのがいいなと思う。